道化師、ステンゲル(2)

“Casey”。生まれは、ミズーリ州カンザスシティ 。よくK.C.と、略される。これが、あだ名になった。署名するときは、Caseyとしていた。ひどいふるさと訛(なまり)は終生かわらず、おまけにお年からくるシャガレ声だったなので、なあんとまあ、よけい聞きづらかったようだ。

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父は料理人、母は保険のセールスマン。1890年の生まれ。学生時代は投手をしており、野球のほかにフットボール、バスケットボールの選手でもあった。ドイツ系アメリカ人であったことから、”Dutch”とも呼ばれ、後年の監督時代はその鋭い機知と、その皮肉なコメントから、”The Old Professor”とも呼ばれたものだ。

なにはともあれ、そんなステンゲル、昭和30年のことだが、ヤンキースをひきいて来日。羽田空港で記者会見があったが、英語に堪能な記者ばかりを集めたが、ハナシがさっぱりわからない。ある記者が、監督と同じミズーリ州生まれのヨギ・ベラをとっ捕まえるや、
「さっきの監督のはなしは、どういう意味なのか? 」
と聞くや、かれは苦笑しながらも、
「オレにも、ボスの英語はよくわからない」
と答えたそうな。生まれ故郷のカンサスシティの訛(なまり)かと思うと、そうでもないらしい。あちらでは、”Stengelease(ステンゲル語)”といわれていたようだ。

それが十二分に発揮されたのが、議会での答弁だった。というのも、特定球団で、リーグをつくって試合をおこなっているためか、独禁法に触れるのではないか、そんな疑問がしばしば提示されていたのだ。この聴聞会に、ステンゲルが呼ばれ、上院議員の、
「あなたの略歴と、本法についての見解をお聞かせください」
との質問に、
「…選手としては、うまくいかなかった年のほうが多かった。なにしろ、このゲームは技量がいりますからな。それでクビになり、仕方ないんでマイナーの監督になりました。なん球団の監督をやったあと、大リーグの球団でもいくつか監督をやったが、またクビでした。首、クビといいましたが、それはどう考えても、わたしが自発的に辞めねばならない理由はないからです」
といったふうに、とりとめもない漫談になってしまい、おもわず上院議員も苦笑をもらして、
「わたしの質問が、不明瞭でしたかな」
と。ステンゲルはというと、
「わたしのお答えも、不明瞭でしたかな」
と、これまた答えたそうな。しかし、そのおかげかどうか、とにもかくにも独禁法適用を免れたのだ。

1960年にピッツバーグ・パイレーツとのワールド・シリーズで敗れた責任により、ヤンキース監督を辞任、この時に、
「私が70歳だから解任か、わかった。次は、そんなマネは二度としない」
というコメントを残している。

1962年からは、新設球団ニューヨーク・メッツの初代監督に就任。すかさず、道化ぶりを発揮。帽子のなかから鳩が飛び出すという、道化師ぶりを発揮したもんだ。

とはいっても、エクスパンション・ドラフトで、他球団のプロテクトを外れた選手ばかりを寄せ集めたチームには、往年の神通力は通じず。就任1年目に、120敗(40勝120敗)のワースト・レコードを更新したのを皮切りに、毎年100敗以上を喫っしてしまったのだ。これこそ、まさしく最下位の常連だった。負け続けた投手に、
「これだけ負けられるっていうのは、お前がいいピッチャーだという証拠だよ」
となぐさめもするが、その本人でさえも、
「メッツの試合よりひどいのは、メッツのダブルヘッダーだけ」
という言い草だったし、
「こんな負け方が、世の中にあったのか」
と、驚くやら、嘆くやら。そんな調子だから、毎年、もう今年で最後と、ことごとく新聞に載るほどであったが、それでも解任はされなかった。ニューヨークのファンは、よかれと思ったのかどうか、まさしく古女房に惚れるかのように、ステンゲルの「弱いメッツ」を愛していたのだ。

そんなステンゲル監督だったからかどうか、しばしば自軍選手の名前を覚えていなかったようだ。審判に交代通告したり、記者を前にして、談話を発表したりするときなど、
「あいつ」、「こいつ」
といった具合。ある選手などは、あまりにも外されたり、名前を覚えてもらえなっかたりして、腹を立て、自分の犬に、「ステンゲル」と、命名したしたという笑い話もある。

メッツ4年目の1965年8月に、友人宅で飲酒した際に転倒して、骨折入院、そのまま辞任。 1975年9月29日カリフォルニア州グレンデールで、ガンのため死去。享年85歳だった。ある記者は、追悼記事において、
「ケーシーが死んだなどという悪質な噂話」
と、きたもんだ。それほど、皆に愛された男だった。監督としての通算成績は、1905勝1842敗。

参考; 「米大リーグ雑学」集(ベースボール・マガジン社)ほか。